ストレスチェック制度の義務化と罰則について
最高の組織力を引き出す!
メンタルトレーナーの森川祐子です。
ストレスチェックが始まって、2年(2017年12月時点)
従業員が50名以上の企業では、少なくとも2度実施されたのではないでしょうか。
*2017年8月に厚労省が発表した「ストレスチェック制度の現状とこれからの予測」についてはこちらをチェックしてみてください。
実施してみて、いかがでしたか?うまく活用されていますか?
ということで、今回の記事ではストレスチェックを受ける意義と重要性、そして「気づいていない落とし穴」や「罰則」があるのか等、気になる点を見ていきたいと思います。
補足までですが、「ストレスチェック」とはストレスに関する質問票(選択回答) に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレス がどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査のことです。
「労働安全衛生法」という法律が改正されて、従業員が 50 人以 上いる事業場では、2015 年 12 月から毎年1回、この検査を全 ての従業員に対して実施することが義務付けられました。
*50人未満の事業場は現状「努力義務」となっています。「ストレスチェック!従業員数50人未満でも必要?」
でご紹介しています。
1、ストレスチェックの意義と重要性
そもそもストレスチェックは何のために行われるかご存知ですか?
・・・「メンタルヘルス不調者を見つけ出すため」「不調者の改善」
が目的ではありません。(付随的にはあるでしょうが)
最大の目的は「予防」にあります。
メンタルヘルス不調になる前に気づいて、対処するということが重要です。
そのためには従業員の皆さんが、自分の心(ストレス)に関心を持ち、ストレスの程度を知ることから始まります。そのツールとなるのがストレスチェックです。
ストレスチェックは、いわば「心の健康診断」と捉えていただくと、わかりやすいですね。では「身体の健康診断」と「心の健康診断(ストレスチェック)」はどう違うのでしょうか?
2、身体の健康診断とストレスチェックの違い
会社に属していれば、定期的に健康診断(身体)を受ける機会があります。
会社は従業員の健康を守る義務(安全配慮義務)がありますから、健康診断の結果は会社経由で、社員の手元に届いています。
結果を受けとってどうでしょう・・・
「血圧が高めだな。タバコ控えた方がいいかも」
「血糖値が高いな〜。甘いもの控えようかな」
「コレステロールが・・・運動しなきゃな」
健康診断の結果を知ることで、もっと身体のことを日常的に注意しようと気遣いますね。場合によっては、黄色信号が点滅して「再診」「精密検査要」となる場合もありますが、これも健康診断を受けるからこそわかります。
会社はその人の健康診断の結果を把握しています。要注意という人もいれば、なかには今の状態で働き続けたら大変なことになる…、となれば残業を禁止したり、勤務時間を調整したり、部署の異動なども考慮しなければなりません。
例えば、めまいがあるような人に高所作業などは絶対にさせてはいけないからです。会社側には「従業員の安全に配慮する義務」があり、健康で働けることを常に考慮しなければなりません。
少し余談ですが、もし従業員が健康診断結果を「個人情報保護法」を盾に会社側に提出したくないとなった場合はどうでしょう?
この場合、会社は従業員の健康状態を把握できてないとなれば、「安全配慮義務違反」となりますから、きちんと納得いただいた上で提出を求めることが必要です。例えばがん検診など法廷項目でないものは、個人情報保護法の観点からも、提出を強制することはできませんが、提出はあくまで決められた項目(法廷項目)が対象ですから、説明すれば、納得いただけるはずです。
【定期健康診断の法廷項目】
*医者と学ぶ心のサプリHPより
さて、ここで健康診断とストレスチェックとの違いについてです。これはストレスチェックの結果は会社を経由せず本人の元に直接届けられるという点です。
そして「本人の判断で、産業医など医師の面談を希望すれば受けられる」というのが、ストレスチェックの現行システムです。ただし受けるとなれば、会社側に申し出をしなければならないので、ここにハードルの高さがうかがえますね。
ストレスチェック実施の最大の注意点は、「結果は会社の上司や人事の人間が見ることはない」と周知徹底しなければならないという点です。なぜならこのルールが十分、共有されていないと、回答の際に他人に見られることを考慮した結果になるということです。
「職場の人間は見ませんよ」と伝えても、受ける側の心理は「それでも一部の人は見ているのではないの?」という不安や、「忙しいのにめんどうくさい」「受けるメリットが感じられない」「わざわざストレスチェックを受けなくても、よくそういうの雑誌などでもやったことがある」等さまざまな意見があるのが実情です。
もし職場にストレスチェックに対するネガティブな意見があるとすれば、どのようなことに対して不満や不安を感じているのかヒアリングしてみると、本音が聞けるかもしれません。
3、ストレスチェック制度の落とし穴
ストレスチェック制度が始まる前は、客観的にストレスのかかり具合を把握することは難しいとされていました。「ストレス」というものを、どうしても自分の主観でしか推し量ることができなかったからです。(まあ、質問そのものに疑問が残るものもありますがそこは置いておいて)
しかしストレスチェック制度が始まったことで、ストレスを目に見える形として数値やグラフに置き換えられるようになり、一目見てストレス状態がわかるようになりました。とてもよいことですね。
身体の健康診断同様に、心の状態がわかることによって、ストレスを溜めない生活を意識することができます。
しかし、ストレスチェック制度にも落とし穴があります。
それは、ストレスチェックの結果が本人にしか通知されないことです。
たしかにプライバシーは守るためには必要な措置です。しかし問題は、ストレスチェック個人の結果を会社は把握できないため、具体的な対処をすることができない、という点です。(職場全体の傾向はストレスチェック実施者より、傾向分析したものを受け取ることができます)
また「高ストレス状態」にあると判定が出た人は、「本人の希望により医師の面接指導を受けることができる」となっています。逆を言えば、本人が希望をしなければ、医師の面接指導は受けられず、また会社側も把握できないということになります。
従業員にすれば、それこそ「高ストレス状態であると会社に知られてしまっては、今後の評価や昇進にかかわる」と思って、なかなか申し出ができないという現状があるのかもしれません。
さて、このような状況において、どう対応するかが非常に重要です。高ストレス者がいるとわかっていながら、何もできずに問題が起きてしまっては、会社側の責任問題が問われてしまうかもしれません。
そこで、ストレスチェック実施前に以下のように周知しておくとよいでしょう。
・高ストレス該当者には、あらかじめ面接指導があることを説明しておく
・高ストレス該当者には、申し出がない場合は会社側から○回(これは衛生委員会等で決めておくといいです)受診勧奨をすることを説明しておく。あわせて受信することもメリットも伝えておく。
・どうしても申し出がない場合には、高ストレス該当者に、セルフケアのパンフレットを配布する
等です。何も知らされてない従業員がストレスチェックを受けて、「医師による面接指導を受けるようにしてください」といきなり通知が届いたら、驚いてしまいます。そのためにストレスチェックを行う前から、面接指導への申し出がないことも予想し、対策をとっておくことが重要です。
4、ストレスチェックをしないと罰則があるの?
国をあげてストレスチェック制度が義務化されたのだから、もし実施しなければペナルティはあるだろうと思われますね。実はストレスチェックを実施しないことへの罰則は今のところありません。
しかしストレスチェック実施した後、常時50人以上の従業員がいる事業場では労働基準監督署に対する報告義務があります。この報告義務を怠ると、労働安全衛生法第100条に違反したということになり、50万円以下の罰金に処せられることになります。
つまり実施しないことへの罰則はなくても、報告義務を怠ったことへの罰則はあるということです。実施はしたけれど報告をしなかった場合も、罰則対象になります。
そしてストレスチェックを行なっていない職場で、従業員が”うつ”などの精神障害となった場合、「安全配慮義務違反」が成立する可能性があります。安全配慮義務とは、平成19年に制定された「労働契約法」に記載されており、労働者もしくは家族からの訴えなどがあれば、多額の損害賠償請求になるリスクがある!ということです。
そういう意味からも、50人未満の事業場の方々も努力義務だから実施しないのではなく、取り入れていくことを前提に準備をしていくべきだと考えます。
5、まとめ
ここまで事前に知っておくべきことや、制度の落とし穴や罰則についてお伝えしました。
ストレスチェック実施後の面接指導を受けるかどうかが、本人次第だとすれば、会社はストレス状況を把握することができず、経費をかけて行なったとしても結局は無駄じゃないの?と実施のメリットが感じられないかもしれません。
結果はわからなくても、部署や部門ごとといった職場のストレス傾向を知ることができるメリットがあります。
例えば、特定の部署にのみ、複数の従業員もしくは大きなストレス反応が出ている場合には、何かしらのトラブルが起こっている可能性があります。理由は皆が把握している問題から、いじめ等、表には出づらい問題も潜んでいるかもしれません。
もしストレスチェック後の職場ごとの傾向分析結果から、ストレスのかかり具合を把握できれば、部署の人間、もしくは周辺の人たちからヒアリングを行うことで、問題が浮き彫りにしていくことができます。
また50人以上の事業場におけるストレスチェックの実施&報告義務という点を除いたとして、行なっていなければ万が一という状況において「従業員の健康に対して何の対処もしていなかった」と見なされても仕方ないということになります。
最初は受ける人たちも慣れずに、やりづらさもあるかもしれませんが、前向きに捉え継続していってください。小規模事業(従業員50人未満)の場合でも同様です。実施することで従業員の心の健康を守ること。ひいては会社を守ることにつながります。
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代表 森川 祐子
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