管理者であれば知っておきたい!メンタルヘルス研修における休職〜復職の実践
最高の組織力を引き出す!
メンタルトレーナーの森川祐子です。
先日、鹿児島県で医療関係者への研修でした。
医療現場は常に命との隣り合わせ。そのためか緊張感があり、プレッシャーも高い職場です。
特に管理職者研修における、現場の声は「今は採用者を募るのも大変でかつ、若手職員の定着にも難しい」とのこと。メンタルヘルス問題も当然他人事ではなく、対応一つで離職率も変わってくるため、繊細になるのも頷けます。
あらかじめご要望のあったのが「休職から復職」について。
今回の研修では「休職してしまったら復職できるのだろうか?」「復職までの流れがイメージできない」という声があったため、カリキュラムに盛り込みました。この記事を読んでいる方のなかにも、メンタルヘルス不調→休職まではイメージできても、その先は???という方もいらっしゃるのではないでしょうか。それではステップを踏みながら解説いたします。
目次
1、メンタルヘルス不調〜休職
不調の程度にもよりますが、何ヶ月もの間、有給を消化しながら不調に対応してきた方で、有給がなくなり、依然として容態が回復しない場合であれば、休職に入ることを余儀なくされます。
不調者のなかには、ある日突然職場に来られなくなるケースもありますが、多いケースとしては「2日出勤して1日休む」それだと平日の週中に一日休むとなんとか、継続して会社に来れてしまうわけです。
現状として、”うつ”などの訴えは増える傾向にあります。以下は「精神障害に係る労災請求・決定件数の推移」からも増加が見られます。詳しくは厚労省「過労死等の労災補償状況」より
上司や周囲の人たちに、「ちょっと今日、調子が悪くて」としか伝えていなければ、まさか本人の不調が、メンタルヘルスによるものだとは思いません。そういう休み方をして回復すればいいですが、よくならない場合、そのまま長期休職に入ってしまうことがあります。
不調者本人にすれば、我慢して我慢してなんとか出勤しようとするのだけれど、さらに具合が悪くなって、連絡(電話やメール)さえできなくなる。無断で休む人に対して、周囲は「なぜ電話1本くらいできないんだ!」と思うかもしれませんが、調子が悪いと「その電話1本」がどうしてもかけられないのですね。
できれば、その状態になるまでに、不調者から申告できることが望ましいですし、周囲の人たちもわかる範囲で声をかけて「無理をさせない」ことが望ましいです。
2、いざ休職に入る
休職に入ってすぐは、もしかしたら休職の手続きや引き継ぎが思うようにいかないこともあるかもしれません。口頭での面談が難しい場合には、書面にしてお送りしておくと安心してもらえるでしょう。
- 今後、療養中の窓口は私○○○○が担当させていただきます。
- あなたの健康情報はきちんと保護されます。
- 会社からは手続き上必要な時だけ連絡します。
- 時には上司などからメールが来る場合もありますが、返信は不要です。
- あなたから連絡が必要な時は、電話、メールのいずれでもかまいません。
- 担当者が主治医と面談が必要な時には、事前にあなたに了解を得たうえで、あなたの同席のもと行います。
- この面談を行う場合には、あなたを通じて、予約をしますから安心してください。
*鈴木安名氏著書「メンタルヘルス読本」参考
軽度の場合は2〜3週間もすると、症状も落ち着いてきますので、自らの就業状況について、振り返るとよいでしょう。
何が要因で、メンタルヘルス不調になってしまったのかを、振り返ってみることです。しかしながら、自分でできる振り返りには限度があります。多くの場合要因はだいたいわかっているはずです。
・仕事量が多すぎた(上司や先輩に対して、断れなかった)
・苦手な人が職場にいた、ハラスメントを受けていた
・自分が攻撃されているわけではないが、
ハラスメントが常態化していて落ち着いて仕事ができるじょうきょうではなかった
・仕事の内容が難しく(合わず)ついていけなくなった
・仕事で成果が出せない
等さまざまです。知識を増やしたり、技術を得て改善できることもあれば、自分一人ではどうにもならないことがありますから、その場合には他者や専門家を頼ることも必要です。
メンタルヘルス不調に一番多い”うつ”の治療の三本柱とされるものは
1、薬物療法(お薬を飲むこと)
2、心理療法
3、環境整備(主に休養)
です。
”うつ”は心の風邪とも言いますですが、風邪のように寝て、栄養を摂っていたら治るというものではありません。きちんと治療が必要です。もちろんお薬には副作用もありますから、主治医に相談しながら(勝手に薬を止めてしまうことなく)すすめることが大切です。
軽度の”うつ”はお薬を飲んで休養すると、早い人で1ヶ月もすれば、よくなったと感じられます。では心理療法は不要ではないかと思うかもしれませんが、そうではありません。症状がよくなったからと安易に復職すると、もともとご本人にとって過酷な職場だったのでしょうから、再発してしまう恐れがあります。
そこで物事の捉え方、考え方、物事の捉え方を変える必要があるのです。
例えば「仕事とは完璧に、一生懸命、責任を持ってやるべき!」と考える人がいます。もちろん仕事に対する考え方は素晴らしいものですが、時としてその考えが自らを苦しめていることがあります。完璧に、責任をもってできていた自分=評価に値すると思えるでしょうが、メンタルヘルス不調によって、集中力や判断力が低下した時、同じような結果をだすことができなかったらどうでしょう?
完璧にできない自分は・・・ダメな自分になってしまいます。
そこで自分に対する認知を見直す必要が出てきます。「本当に仕事が完璧にできない自分はだめな自分なのでしょうか?」ということをです。もちろん考え方は人それぞれ。「○○であるべき」ということを強制するものではありません。ただ大事なことは自分が生きやすい選択や考え方を許容できるかということが大事だと私は考えます。
考え方というものは、視野が狭くなっていると当人にとって、他の考え方は存在しないも同じです。「〜あるべき」が強すぎる見方は時として不幸なことかもしれません。それを”うつ”というきっかけを通して、自らを見つめ直す心理療法は効果的だと考えるのです。
3、休職から、そろそろ復帰に向けて
病状が安定し、働きたいという意欲が高まってきたら、復帰に向けての準備に入ります。
まずは以下の回復の目安を参考にしてみてください。
- 大きな落ち込みや気分の高揚はないか
- 主治医の指示通り、定期的に通院できているか
- 食事は摂れているか
- 十分、睡眠はとれているか
- 昼間に眠気はないか
- 仕事に対する意欲はあるか
- 仕事をする体力、集中力、注意力は回復してきているか
- 人が大勢いる場所でも気分が悪くならないか
そのうえで主治医に、職場復帰が可能かを確認し、診断書を作成してもらいます。
重要なことは主治医が『職場復帰してもよし!』としても、会社側がすんなりと『復職してもいいですよ』とはならないケースが多いということです。
「え〜、主治医がいいって言ってるんだから復職していいじゃない!」と思うかもしれません。場合によっては傷病手当が終わる時期が近づいているために、復帰せざるを得ないということもあります。
しかしながら、主治医のOKが、職場で求められる業務遂行能力まで回復している判断とイコールであるとは限りません。主治医が元の職場の状況を把握していないことが多いからです。
そこで産業医(会社の)が精査し判断することになります。そのためにも主治医に、どのような就業環境なのかを理解しておいてもらう(例えば会社の担当者をまじえての三者面談を行っておくなど)とよいかもしれません。
4、復職を決定する前に決めること
最終的に本人の意思確認はもちろん、主治医や産業医の意見、人事労務担当者など、さまざまな視点からの評価を行なって総合的に判断することが大切です。
そのうえで、職場復帰が可能との判断が出されたなら、そこから職場復帰支援プランを作成していきます。
参考資料:厚生労働省による「職場復帰支援プランの手引き」
さてそのプランの内容はどのようなものなのでしょうか・・・
3-1、職場復帰支援プランとは
つまり復帰した場合にどのような業務についてもらうのか、また業務量や就業上の配慮を含めて具体的に決めていきます。場合によっては、もとの職場が忙しすぎる時など、配置転換や異動の必要性、シフト出勤の場合であれば就業可能な時間帯はどうか?安全配慮義務は問題ないか?など様々な観点から検討していきます。
- 職場復帰日
- 管理監督者による就業上の配慮
- 人事労務管理上の対応
- 産業医等による医学的見地からみた意見
- 産業保健スタッフ等によるフォローアップ方法
- 試し出勤制度の利用、社外のカウンセラーの利用 等
3-2、最終的な職場復帰の決定
職場復帰支援プランが作成し終えた段階で、事業者による最終的な職場復帰決定を行います。
最終、本人の疾患の再発がないかを確認し、作成した職場復帰プランについて、関係者全員で確認・合意のうえ、いよいよ稼働していきます。
またこのタイミングで、主治医にも、職場復帰プランについて、就業内容や配慮等を理解しておいてもらえるようにします。
4、いよいよ職場復帰!!
いよいよ、職場復帰!!以前のようにバリバリ働いて・・・
というのは、もう少し先です。この復帰段階がとても大切です。段階を追って、心も体も職場に慣れていけるよう本人の気持ちだけでなく、周囲の人たちの配慮も重要です。
【復職後1〜2ヶ月の時期】
休職期間が長い方ほど、それまでの生活とはギャップが大きいので、体調の変化には最大限の配慮をしましょう。そのためにも、復職日1、2週間前の試し出勤が適当だと考えます(試しに出勤すること。2時間〜6、7時間の勤務に慣らしていきます)
この時期は主治医のもとへも、こまめに受診し、アドバイスをもらいながら、すすめるといいですね。管理監督者(上長)には業務内容や職場の様子を報告したり、負担に思うことなどを報告・相談する機会を2週間に1回程度行います。慣れてくると1ヶ月に1回程度してもよいでしょう。
【復職後3〜4ヶ月の時期】
段階的に上がっていく業務内容、ボリュームに適応できるかを見ていきます。
業務内容やポジションにもよりますが、今後のキャリアについて悩みがあるようでしたら支援していきます。
【復職後5〜6ヶ月の時期】
フォローアップの終了にむけて、セルフケアできるようサポートしていきます。もちろんフォローアップ期間が終わったからと言って、全く手放しというわけではありませんが、ご本人にとっても自立に向けて準備していく必要があります。
そしてこの時期に重要なことは、職場復帰のフォローアップが終了するからといって、通院が終了というわけではありません。体調も問題ないからと投薬を止めてしまうのも、こうした時期に「大丈夫だろう」と勝手な自己判断のもと、行われることがありますが、くれぐれも主治医が「止めてよい」と指示がでるまでは、必ず飲み続けましょう。
5、まとめ
休職〜復職までの流れは、いかがでしたでしょうか。
休職のその先までは、イメージ湧きづらい部分があるかと思いますが、流れを知っておくだけで、自分自身の問題だけでなく、職場の部下や後輩、ご家族などが、このような状態になった際のかかわりが想像できるかと思います。
またご自身の会社の休職や復職の規定、マニュアルがあるようでしたら確認しておいてください。大きな組織では細かな規定まで決まっていることが多いので、管理監督者の立場にある方は目を通しておくとよいでしょう。
一昔前までは、”うつ”で休職したら、復職なんて無理だと言われた時期もありました。しかし最近では”うつ”での休職者が増えている一方で、復職へのステップを整備している組織も増えています。もしご自身の会社で、整備されていないようなら、気づいた時点で社労士さんに相談をして準備しておくとよいですよ。
休職、復職問題は会社にとっても、従業員が安心して働くためにも大切なものです。今からできることをすすめていきましょう。
代表 森川 祐子
参考図書:吉野聡氏「職場のメンタルヘルス」を強化する
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