メンタルヘルス研修でここが知りたい!そのメンタル不調は労災?それとも私傷病?

最高の組織力を引き出す!
メンタルトレーナーの森川祐子です。
日曜日の夕方、テレビで「サザエさん」が放送されると気持ちが沈む・・・
ということはありませんか?
働く人だけでなく、もしかしたら学生でさえも「また一週間が始まる・・・」と思うと気分が落ち込む人は少なくないかもしれません。もちろんこれだけでは、メンタルヘルス不調とは言えないわけですが、月曜日の朝になると気分が憂鬱で起きられない。月曜だけでなく遅刻や欠勤数日続くとなるとこれは単に「誰にでもあること」と気休めではすまなくなります。
メンタルヘルス不調の扱いが難しいと言われる所以は、医療機関で受診しても血液検査の結果のように数値化できないという点です。
では精神科医における診断はどのようになっているのでしょうか?
一昔前に主流だったのが、医師の所見に加えて、生活歴や既往歴、発症時の引き金となったような出来事、症状の変化、病前の性格等を総合的に判断し、診断をされていました。
この方法は担当した医師の経験と勘に基づいて病名がつくため、先生によって病名に差が出てしまうというデメリットがあります。A先生からは、うつ病と診断されたのに、B先生からは双極性障害(ひと昔前だと躁うつ病とも言われていました)だと診断されることもありうるということです。
そこで現在では、アメリカ精神医学で出版されているDSM-5(最新が5版ということ)をもとに、「ここに書かれている症状のうち、○個以上があてはまって△週間連続で続いた場合は□□□病と診断する」ということが決まっているため、誰が診ても同じ病名に辿り着くようになりました。
では、働く人に一番多いメンタルヘルス不調”うつ”の場合はどうでしょう?
*うつについて詳しく知りたい方は、DSM-5に基づいた「日本うつ病学会治療ガイドライン」へ
目次
1、うつ病と診断されるには「症状が2週間以上継続」がポイントに
「気分が落ち込む」ということありますか?
・・・そういう時もありますよね。『気分の落ち込み』は特別なことではなく誰にでも起こりうることです。
多くの場合は一晩寝たら『スッキリした』もしくは『日が経つと徐々に和らぐ』ことがほとんどです。しかしそれがしばらく経っても『気分が変わらない』となると注意が必要です。
例えば、仕事で失敗して上司に叱られた、周囲に迷惑をかけてしまった。
家に帰っても食事が喉を通らず、夜も眠れず、会社にも行きたくなくなる・・・仕事をしてきた人であれば、誰でも経験あるのではないでしょうか。それでも2、3日経てばいつも通りになって、叱られたことなども客観的に捉えられるようになったりするものです。
しかし『落ち込み』が回復せず、くよくよした様子が続く時は、うつの症状「意外に知られていない!うつについて」の記事にまとめていますので、チェックしてみてください。
また、普通に考えれば、一度落ち込んだからといって、すぐに”うつ”になるわけではありません。日頃から落ち込んだり気分がふさぎ込むような時に、どのように対処すれば気持ちを切り替えたり、リフレッシュできるのか『セルフケア』の仕方を知っておくことが大切です。
さて組織において重要なのはここからです。
2、労働災害事案と私傷病事案の違い
メンタルヘルス問題を見る際に、労働災害(労災)案件かどうかを意識する必要があります。最近では、働く人たちの人権意識も高まってきているため、職場でのトラブルが訴訟問題や労災に発展しやすい傾向にあります。
そもそも労災にあたる事案は、その発祥の原因が職場におけるストレスが原因だったかどうかが見られます。
しかしよく考えてみてください。「仕事にはある程度のストレスはつきもの」だということです。
復職段階で主治医が復職の条件に「ストレスのない業務に従事させる」といったことを診断書に書くケースがありますが、それは無理な話です。もし主治医の診立てが『ストレスがかかっては再発の恐れがあり』ということなのであれば、まだ復職には時期尚早だと言っているようなものです。
労災に話を戻しますが、労災事案に相当するストレスとは
『職場において通常想定される範囲内のストレスを逸脱したストレス』ということになります。
例えば、営業の仕事において、ノルマが課されることは致し方ないことですね。例えば他の営業マンがやっても決してノルマが達成不可能なノルマだとすれば、それは「逸脱したストレス」とみなされるかもしれません。
客観的に見て、努力すれば達成可能なノルマということであれば「想定内のストレス」と解釈されるわけです。
また単体で見れば通常のストレスでも、複数のストレスが重なることで困難が予想される場合には、「通常の範囲を逸脱したストレス」とみなされることもあります。
例えば「転勤の辞令が出た」はどうでしょう?
仕事をしていれば、当然住居移転に伴う「転勤」指示が出ることがあります。転勤によって、住環境の変化や職場の仲間と離れ離れになるといった、大きな環境の変化であることは間違いありません。それでも「転勤」そのものは「想定範囲内のストレス」だと言えるでしょう。
しかし、その「転勤」が単に住居をともなう「転勤」だけでなく、赴任先が海外であったり、治安がよくない、コミュニケーションに不安がある、人間関係をゼロから作っていかなければならない・・・こういった場合は想像を超える過度なストレスを被ることが予想されます。
海外への転勤の辞令を受け取った人が、どんな困難にも果敢にチャレンジするような人であれば、大きなストレスも乗り越えられるかもしれません。しかしそうでないなら、「通常想定される範囲を逸脱したストレス」と考えられるわけです。
じゃあ、「海外転勤の辞令自体が労災か?」とちょっと極端な質問も出てきそうですが、大きなストレスがかかる仕事だからこそ、それ以外のところでの仕事への配慮、現地でのサポート体制、家族を同伴する等会社が出来うる限りのサポートを厚くすることでカバーする必要があるわけです。
3、誰が労災だと判断するのでしょうか?
まれに「健康を害したこと」に対して人事や総務の人に「労災認定してもらえますか?」と申し出があると聞きますが、社内の人が労災の判定を行うわけではありません。
労災の判定は労働基準監督署が行います。
ではどのように判定されているのか?が気になるところです。厚労省の発表している一連の流れが以下の通りです。
出典;厚生労働省「精神障害の労災認定フローチャート」より
フローチャートに沿って説明していきます。
3-1、認定基準の対象となる精神障害を発病している
ここでいう精神障害とは、認知症やアルコール依存症等を除く精神障害をさします。しかし統合失調症やパーソナリティ障害等がありますが、これらのほとんどは業務との関連性が薄いので、結局のところは”うつ病”や”適応症””急性ストレス反応”などが挙げられます。
3-2、発病前の6ヶ月の間に、業務による強いストレスが認められること
厚労省の定める内容としては
「認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷がみとめられること」と表記されています。
つまり、心理的負担が「強」と評価されると、かなりの確率で労働災害に認定される。では「強」と言われるものにはどのようなことがあるのかをいうのを以下に示しています。
上記以外にも1ヶ月160時間を超えるような時間外労働も「極度の長時間労働」と見なされ「強」と同程度にあたります。
3−3業務以外の心理的負荷、個体側要因の評価
業務による心理的負担が強いと認められた上で、さらに2点確認事項があります。
1、業務以外でストレスにかかることはなかったか
2、健康上問題はなかったか
ということが見られます。
これらを見た上で、業務以外で強いストレスのかかる要因がなく、健康上の問題もなければ、労災と判断される可能性が高くなります。
4、まとめ
いかがでしたでしょうか?
メンタルヘルス問題については、リスクとして認識ができ、対応さえ間違えなければ、敏感になりすぎることはありません。しかし基本的な知識と認識が定着しないうちは、「ああ、そう言えば、そんな話を聞いたことがある」といった状態にとどまってしまいます。
メンタルヘルスの基本は、難しいものではありません。もちろん病識や労働に関する法律・知識を専門家レベルで習得するには時間を要しますが、職場で働くうえで知っていただきたい基本は、繰り返しメンタルヘルスに触れ、周囲の人たちと共有することです。
そして、その第一歩となるのが、研修やセミナーだと考えます。
研修やセミナーの良いところは、一時(いちどき)に学べることで、共通認識が持てることです。例えば「パワハラ研修」などでもパワハラにあたる行為への認識が同じになることで、パワハラへの抑止力になります。
メンタルヘルスのことを気になってはいても、なかなか手がつけられていないという企業様がいらっしゃれば、まずは基本の研修から始めてみてはいかがでしょうか。
代表 森川祐子
参考文献:産業医吉野聡氏「職場のメンタルヘルス」を強化するより